■公園再編計画検討の背景
日本では、経済成長や人口増加等を背景に、昭和40~60年代にかけ多くの公園が整備され、現在も少なくはなりましたが新規整備は進められています。
「公園の三種の神器」という言葉がありますが、多くの公園にブランコ、砂場、滑り台などの遊具が設置されたことは、子どもの遊び場としての機能整備に貢献した反面、整備内容が画一的であると指摘する声もあります。
また、整備後の時間経過において、施設の老朽化が進むと同時に、人口減少、少子高齢化などの社会情勢を受け、ニーズが多様化しているほか、需要の変化により利用が少ない公園も見受けられます。
そのため、これまでに整備してきた公園という都市や地域の「ストック」(資産)を有効に活用しつつ、都市や地域課題の解決に貢献し、多様化したニーズに対応するため、公園の機能の見直しや公園間の機能分担などを通じ、公園再編に向けた取組を行う自治体が増えてきています。
■公園の機能の見直し
公園には、「子育て」、「健康づくり」、「憩い」、「防災」、「環境保全」、「にぎわい創出」等の機能があります。本来、多くの公園はそうした機能のうち、特定のものに限定せず、多面的な機能を備えるものと考えられます。
ただし、小規模な公園の多い身近な公園(住区基幹公園※)では、多面的な機能を備えさせることは、面積規模の点で困難な場合があります。
また、社会情勢に伴うニーズの変化や地域課題等への対応の観点から、今ある公園ストックを活用し、それらニーズ等に対応する機能を備えることが重要であり、そのための公園機能の見直しが行われています。
※住区基幹公園は、人々の日常生活を営む環境を整えることを目的に整備されたもので、日常生活に近しい位置にあることなどから「身近な公園」と称されます。住区基幹公園のうち、2500㎡(50m四方)を標準面積とする街区公園が多くを占め、標準面積よりも狭い公園も少なくありません。
■公園間の機能分担
身近な公園では、狭い公園を有効活用することが求められることがあります。そうした公園で、機能の見直しを行う際、子育てや健康づくりなど、ニーズや課題に対応する特定の機能の充実(機能特化)を行うことが重要です。
ただし、そうした特定の機能の充実は、面積の限られた公園では、他の機能について縮減が必要になるなど、両立の難しい「トレードオフの関係」になりがちです。
そうした場合、地域に位置する複数の公園をセットにして、ある公園では子育て機能を、別の公園では健康づくり機能を充実させるといった、公園間の機能分担を行うことが地域の公園を最大限有効に活用することにつながります。
公園の機能イメージ
公園間の機能(役割)分担イメージ
■公園の再編計画の例
公園の再編計画は、一般的には、市町村などの自治体が管理する主に身近な公園を対象とし、公園機能の見直し、公園間の機能分担のあり方などを整理し、その自治体が公園づくりを通じ、どのような都市や地域にしていこうとしているか、将来像を示すものといえます。
こうした公園の再編計画の実現を通じ、これまで人々に愛着を持って活用されてきた公園を有効に活用しながら、都市や地域の魅力、利便性の向上、課題の解決に貢献する公園のリノベーションを図るものとなります。
当社では、これら公園の再編計画に関する検討を支援する業務を請け負うことが増えてきています。ここでは、近年業務を請け負った2つの自治体における公園再編計画の検討例を紹介します。
いずれの業務でも、自治体の担当者とともに、その都市の課題や目指すまちづくりに対応した公園再編の基本的な考え方の整理を行いました。また、当社において公園整備・管理に係る定量的・定性的な現況データの整理、現地調査や人流データ分析等による公園利用状況の把握を行い、これを踏まえ、具体的な計画の進め方などを検討しています
《A市の場合》
A市は、市内おしなべて土地利用密度が高く、地域の拠点となる比較的面積の広い公園の確保に苦慮する一方、人口減少・少子高齢化が進行するなど、都市や地域の課題に対応する公園再編の検討が求められていました。
そこで、当社では、日常的な生活空間である小学校区を単位とした、面積規模別の公園箇所数、公園の機能を表象する公園施設の配置状況、現地調査結果などを踏まえ、地域の拠点となる公園の少ない校区、市民一人当りの公園面積の少ない校区、公園機能の偏りがみられる校区など、A市の公園配置の特徴と課題について整理を行いました。
そのうえで、公園再編に向けた方策として、地域の拠点となる公園、特色を強める公園(機能特化を実施)など位置づけの整理、公園間の機能分担を通じた公園づくり、他の公共事業と関連した公園再整備等を提示しています。
なお、この業務では、地域の拠点となる公園と、特色を強める公園の候補となる小規模な公園を調査対象公園としてセットにし、利用者数や利用ニーズを確認する現地調査を行いました。
地域の拠点となる公園では、利用者が多く、標準的な誘致距離(※)の範囲を超えた利用が行われていた一方、小規模な公園の中にはほとんど利用がなく、利用圏域もごく近所にお住まいの方に限られ標準的な誘致距離よりも狭い公園があるなど、「二極化」と表現することもできる利用状況を確認でき、各公園の特性や利用実態を踏まえた検討の重要性が示唆されました。
※2002年度の都市公園法施行令改正以前に示されていた住区基幹公園における標準的な誘致距離
《B市の場合》
B市は、旧市街地とその外縁に広がる田園地帯等で構成された自治体で、田園地帯を中心に今なお続く住宅開発・人口増加に対応した公園整備が必要な地域と、旧市街地を中心に人口減少・少子高齢化に対応した既存公園の整理が必要な地域があります。そうした都市構造に対応し、今後の公園整備・管理のあり方を定める公園再編計画について検討する必要性がありました。
そこで、当社では、B市の担当者とともに、公園整備・管理の将来像やその実現に向けた基本的な方針の検討を行い、公園機能の考え方、機能分担を行う場合の候補箇所、機能設定により異なる標準的なライフサイクルコストなど、公園再編の推進に係る具体的な検討を行いました。
なお、この業務では、公園の現地調査に加え、スマートフォン等の位置情報をもとにした「人流データ」(位置情報ビッグデータ)を用いた公園の利用状況把握を行ったことに、業務上の特徴があります。
人流データには、製品やサービスにより空間分解能、サンプル数に違いがあるなど利用上の留意点があるため、分析目的や条件に応じた製品等の選択を行うことが重要であり、本業務では、小規模な公園であっても利用状況を比較的把握しやすいポイントデータのうち、サンプル数が比較的多いC社のデータ製品(※)を選択しました。
人流データを用いた分析は、一般に限られた箇所数の公園を対象に行う現地調査と異なり、市内全ての公園を対象に、公園別の推定利用者数、利用圏域(平均誘致距離)等の利用状況を把握することが可能であり、市内を俯瞰する公園利用データは計画内容を多面的に検討する上で貴重な知見になりました。
※C社の人流データ製品は、小規模公園でも利用者数を補足しやすいポイントデータでありながら、データの取得方法から特定の通信キャリアに限定されないため、サンプル数が比較的多く、8分の1地域メッシュ(125m四方)単位の推定居住地情報をもつなど、身近な公園の利用状況把握への適性の高さに特徴があります。